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VATSIMにおける管制処理容量

この記事は「Reverse Green」で公開されていたものです。

管制処理容量とは、「管制機関が管制業務を提供することのできる能力又はこれに相当する航空交通量」(航空保安業務処理規定より引用)を言います。簡単に言えば、管制官が扱うことの出来るトラフィック量の限界値です。管制処理容量を超えるトラフィックが飛来すると、航空管制業務に支障をきたすことになります。
さて、ここで皆さんに知っておいて頂きたいのは、VATSIM管制官の管制処理容量は、実際の航空管制と比べて、遥かに小さいということです。

もちろんプロとアマチュアの技量の差も大きいでしょうが、それとは別にVATSIM特有の事情があることを皆さんに理解して頂き、フライト中、管制官との間で円滑なコミュニケーションが取れるよう、VATSIM管制官事情を記載しておきたいと思います。

なお、「管制官のミスは全部許せ、パイロットのミスは認めん!」みたいな意図で書いているわけではありませんので、誤解の無いようよろしくお願いします。
管制レーティングを持たないメンバーからは見えない世界をここに示すことで、VATSIM管制に対する過大な期待を和らげ、管制官の適正な評価に必要な情報を提供することで、メンバー間の友好関係の発展と健全な技量向上に資することを目的としています。

※途中で読み飽きちゃったりした場合も、とりあえず「最後に」だけは読んで頂けると嬉しいです。

調整席の存在

実際の航空無線を聞いている時に出てくる管制官は1人ですが、実はその隣に調整役の管制官がもう1人座って仕事をしています。パイロットと無線交信をするのが対空席、そしてこの他セクター等との調整役を引受けるのが調整席です。
VATSIMではもちろん存在しません。擬似調整席を設けることは可能ですが、リアルに比べると出来ることは大幅に制限される上、そもそもイベント等で調整席を確保するには管制官の人数が足りず、現状ではほぼ不可能です。
(さらにリアルでは、調整席以外にも沢山の人が対空席の裏で航空管制業務に携わっています。)

一方でトラフィック量が増えるに連れ、調整席の重要性は加速度的に増していきます。
VATSIMにおいても、他セクター(他の管制空域)との調整は必要不可欠です。無線交信が行われていなくとも、その裏では高度、ハンドオフ地点、レーダーベクター、飛行経路等やそれらの変更、パイロットからのリクエスト等、様々な項目に関して管制官間でやりとりが行われています。

そしてこういった調整を行ってる間も、VATSIMでは当然に平行して対空業務を行わなければなりません。管制官は無線交信に優先して対応せざるを得ませんから、忙しくなってくるとメモする暇もなくなってきますし、メモする隙がない状況で調整なんてまともに出来るわけがありません。
さらにそんな状況ではフライトストリップ(ルートや行き先、Remark欄等が書かれたもの)を見る暇もありませんし、ついでにレーダー画面上に映っていることも見落としがちになります。

交信が一段落してしばらく無音の時間があったとしても、管制官はその間に溜まった調整の処理に追われます。しかし交信中はメモする暇もなかったので調整すべき事項を失念、なんてことも珍しくはありません。

パイロットが何度も同じことを説明させられたり、フライトプラン等として提出したことと違うことを指示されたり、あるいは伝えたはずのリクエストが無視されてしまっていたりした場合は、大抵こういった管制官への過負荷が原因です。
見た目には大した機数でなくても、無線交信が全然行われていなくても、その裏には膨大な事務処理が隠れていることを是非覚えておいてください。
無線がひっきりなしに飛び交っている状況は、既に管制処理容量をオーバーしている(少なくともオーバーしつつある)ことを意味します。

空域の広さ

実際の管制官とVATSIM管制官では、担当する空域の広さが全く異なります。ほとんどの場合、VATSIM管制官はリアルよりも広い空域を担当しなければなりません。
タワー、グランド、デリバリーと揃っている場合でも、イベント会場となるような大空港の場合、リアルではそれぞれ複数の管制官(例えば滑走路1本につきタワー管制官1人)がいて、結局VATSIMではリアルより広い領域を担当しなければならなくなります。
アプローチやディパーチャーも同様に、ほとんどの場合VATSIMの方が広範に担当しなければなりません。(その最たる例は関西アプローチで、ディパーチャーとタワー以下の分を無視しても、リアルの管制官6人分の仕事をこなさなければなりません。)

そしてコントロールとなると、仮に全部の空港にアプローチやタワー等を担当する管制官がいたとしても、その負担は一気に10倍以上へと膨れ上がります。
札幌、東京、福岡、神戸の各航空交通管制部はそれぞれ広大な空域を担当していますが、リアルでは1人(調整席を入れて2人)の管制官が担当するのは、各航空交通管制部の担当空域をさらに細分化した空域です。
一方でVATSIMでは、原則として各航空交通管制部の担当空域を1人で受け持つことになります。東京コントロールは管制官が2人いれば東西に2分割できますが、それでもリアルの5倍を超えます。
さらに、上記の「全部の空港にアプローチやタワー等を担当する管制官がいる」という前提は事実上ありえませんので、担当する空域は倍増します。
VATSIMにおけるエンルート管制業務がいかに高負荷なものか分かって頂けるのではないでしょうか。

ここで、VATSIMの方がリアルよりも圧倒的にトラフィック量が少ないだろうと突っ込みたくなったかもしれません。実際その通りです。担当する空域が増えたところでその空域にトラフィックが来なければ、(誤解を恐れずに言えば)その空域は無いも同然です。
しかしトラフィック量の違いにより生じた負荷の減少分を打ち消すかのように、VATSIM管制官には別の負荷が加えられます。
上記の調整席の有無により生じる負荷、各トラフィックの出発経路や到着経路の選定、到着地の天候調査、レーダーベクター等です。

出発経路については、正しいルートがフライトプランに記載されていればそれを確認するだけで済みますが、それでもチャートを開いてルートや飛行制限を調べるのはそれなりに時間がかかります。そして到着経路は天候によって左右されるため、パイロットが親切に書いていてくれたとしても、確認の手間はどうしてもかかります。
出発経路の記載がない場合は自分で調べないといけません。そもそもプランが間違っている場合は最悪で、出発経路のチャートを全部調べて確認せざるを得ず、しかもその労力は完全に無駄となります。さらにその場合は大抵到着経路も全部調べて結局無駄になる場合が多いです。

レーダーベクターはどうでしょうか。1ヶ所なら、他のトラフィックが少なければさほど問題にはならない場合が多いかもしれません。しかし、例えば仙台と大阪で同時に到着機をレーダーベクターしなければならない場合はどうでしょう。
到着機のレーダーベクターはそれなりの精度が必要ですから、レーダー画面を拡大して表示させる必要があります。ディスプレイサイズは一定ですから、それはすなわち他の空域の表示を圧迫することを意味します。(仮に十分に大きい表示領域があったとしても、人間の視野は限られます。)
ということはあっちとこっちとレーダー画面の表示空域を頻繁に操作しなければならないわけで、それに別のトラフィックの管制も加われば結構大変です。つまりタイミングと状況が悪ければ、たった3機しかいなくてもコントロール管制官に高負荷をかけることが可能になってしまうのです。

コントロールは空域が広い分トラフィックの密度が小さくなるため、余計に管制官が暇に見えがちです。しかし、実際は見た目よりはるかに忙しいということを頭の片隅において、気遣いをお願いします。

訓練の機会

上でも述べましたが、VATSIMの交通量は通常さほど多くはありません。システム上高負荷がかかりやすいエンルート管制官ならともかく、アプローチやタワーで、技量向上の為に適切なトラフィック量を裁く機会はほとんどありません。
イベントではトラフィック量が多くなりますが、(基本的には)管制官の訓練の場として設定されてはいませんし、そもそもイベントの回数が多いわけでもなく、かと言って回数を増やしても人数が集まらないことは容易に想像できます。
さらにメンバーは御存知の通りアマチュアですから、他に本業や学生には勉強があり、VATSIMに注ぎ込めるエネルギーは必然的に限られます。バーチャルとはいえ管制業務は(慣れていても)結構神経を使いますから、訓練のチャンスが十分提供されていたとしても、それを活かすのは簡単ではありません。

そうなるとどうしても技量向上の機会は大きく制限されてしまうのです。管制官がログインさえしていれば訓練出来るバーチャルパイロットとは少し事情が異なっていることを考慮してみてください。

パイロットへの対応

リアルの航空管制官が相手にするのは(特に交通量の多いところでは)プロのエアラインパイロットばかりです。一方でVATSIMでは管制官同様、パイロットもみんなアマチュアです。
エアラインパイロットが相手でもたまに管制官の声が怒ってるように聞こえることもありますし、普段から航空無線を聞いている方なら、小型機等への対応で、一時管制が混乱するような状況を耳にしたことがあるかもしれません。
国家資格を持ったプロ同士の交信でもそんな感じですので、アマチュア同士だともっと苦労が多くなることは想像に難くないでしょう。

VATSIMでは具体的には、回線やVATSIMクライアントソフト等の設定不良や不具合による交信不能、外航機等の日本の空域について全然知らないパイロットへの対応、初心者パイロットへの対応、ミスやエラーによりルートを逸脱したパイロットへの対応、誤ったルートを提出しているパイロットへの対応等があり、それらが全て管制官に負荷としてのしかかります。
ひとつひとつが微小な場合でも、積み重なれば結構な負荷です。国際イベントともなるとひとつひとつが大きい上に数も多くなります。(普段国内イベントでアプローチやってるような人が国際イベントでタワーやグランドにしかアサインしないことがあるのは、この為です。)

もちろんソフトウェアのエラーは回避が難しい場合もありますし、初心者は実際にVATSIMでフライトしないと上手くなれませんからこの辺は管制官の頑張り所なのですが、ルートの誤りや、過失によるルートの逸脱はパイロットの努力により避けるべき問題ではないかと思っています。
(その努力を支援するために、弊サイトを立ち上げたわけでもあります。)

また、いくら自分が適切な処置を行い管制官と協力する体制を取っていたとしても、他のトラフィックにトラブルが起きれば、あなたが割りを食う可能性も相当程度あることを是非理解してください。
面白くない状況でしょうが、そんな時こそVATSIMパイロットとしての真価の見せどころでもあります。

休憩時間の有無

リアルの管制官は、集中力を切らさないよう30分程で担当空域を交代するそうです。が、もちろんVATSIMでそんなことは出来ないと言ってもいいでしょう。レーティングによって担当可能な空域が限られますし、引き継ぎも煩雑すぎます。
となると、特に国際イベント中なんかは3~4時間ぶっ続けで非常に高い負荷にさらされ続けることになります。この点についてだけは、恐らくリアルの航空管制官よりも純粋にヘビーです。

したがって、管制官みんな、結構へとへとになりながら管制していたりします。管制官の声がすごく不機嫌に聞こえることもあるかもしれませんが、単純に疲れているだけという可能性も考慮してください。
そして疲れがたまればミスも増えます。国際イベントやトラフィック量が多いイベントでは、担当管制官への配慮をお願いします。

最後に

他人のミスで自分に被害が及べば、人間誰しもイラッと来るものですが、相手の事情を知ることが出来れば意外と許せる場面も多いと思います。VATSIM管制官はこの点、パイロットとしても参加している人がほとんどですから、管制業務中もある程度相手の事情を推測できます。
他方、メンバーのうち多数を占める管制レーティングを持っていないパイロットは、管制官側の事情を知る機会が皆無と言ってもいい状況です。

公式情報としては扱いづらい話題ですので仕方ないのですが、逆に言えば、非公式にでもその情報を開示することで、パイロットのフラストレーションを多少軽減出来る可能性があります。
その情報価値を是非ご理解いただき、今後のフライトに活かしたり、パイロット仲間への周知を行っていただけたら幸いです。

初心者の方にはよくわからない、イメージしづらい内容も多かったかもしれません。
それでも出来れば頭の片隅に入れておいて頂いて、実際にトラブルに遭遇した際には「これがそうだったのか」と納得してもらえたら嬉しいです。

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