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早速ですが、この交信には3箇所、不適切な場所があります。
![ANA8574](https://squawk.id/img/Icon_JET1.png)
Approach, ANA8574. Leaving FL221 descending FL160. Information Y.
![RJTT_APP](https://squawk.id/img/Icon_ATC.png)
ANA8574, Tokyo Approach. RWY34R. Cleared via GODIN 1C ARRIVAL. Recleared direct COLOR. Descend to reach 11000 by COLOR.
![ANA8574](https://squawk.id/img/Icon_JET1.png)
Cleared via GODIN 1C ARRIVAL and direct COLOR. Reach 11000 by COLOR. 8574.
![ANA8574](https://squawk.id/img/Icon_JET1.png)
Approach, ANA8574, request heading 170, due to weather.
あなたは分かりましたか?
答えは、コールサインの簡略化です。
ANA8574はTokyo Approachを「Approach」と呼び出したり、ANAを省略して「8574」と返したりしています。
実はこれ、不適切なんです。
管制機関のコールサインの簡略化
ANA8574はイニシャルコンタクトも、ヘディングを要求するときも「Approach」と呼び出しています。
論より証拠…ということでATSシンポジウムより引用させていただきます。
問題点:通信設定後の交信において“Ground, All Nippon 787, request taxi”と交信しているケースが散見されるが、管制方式基準には、管制機関の無線呼出符号を簡略化する規定はないので、“Tokyo Ground”を“Ground”と簡略化することはできない。
第37回ATSシンポジウム 適切でない管制用語の使われ方 PartⅡ 3.コールサインの簡略化
イニシャルコンタクトだろうがそのあとだろうが「Approach, ANA8574…」のように管制機関のコールサインを簡略化してはいけないのです。
ですが、一回一回「Tokyo Approach」と言わなければならないのかというとそうではありません。
管制機関のコールサインは、イニシャルコンタクトのあとであれば完全に省略することができるのです。
つまり、わざわざ「Approach」なんて言わなくても、イニシャルコンタクトのあとであれば自分のコールサインから初めていいのです。
方式:・電波法に基づく総務省令無線局運用規則第158条では、「無線電話通信においては、連絡設定後で混同のおそれがない時は、呼出符号を省略できる。」と規定されている。
・管制方式基準(Ⅰ)総則 6 電話通信【通信の設定】には、管制官は自局の呼出符号を省略できることが、またAIM-J276【通信の設定と送信要領】にはパイロットは相手局の呼出符号を省略できることが記載されている。
第37回ATSシンポジウム 適切でない管制用語の使われ方 PartⅡ 3.コールサインの簡略化
通信の設定(呼び出しおよび応答)に引き続いて交信が行われる場合で、混同のおそれがないときは相手局(管制機関等)の呼出符号の送信を省略することができる。
AIM-j 2018年後期版 276.c.
正しい交信例
航空機のコールサイン
ANA8574は復唱の際に「ANA」を省略して「8574」と送信しました。
このような省略は認められていないため、しっかりと「ANA8574」と送信する必要があります。
コールサインの形式
民間機のコールサインは以下のいずれかの形式のものを使用します。
- レジ番
- 航空会社のコールサインにレジ番の最後の4桁を付けたもの
- 航空会社のコールサインに便名(飛行識別)を付けたもの
a.はJA831Aなど、航空機の国籍記号と登録記号を合わせたものです。
b.はANA831Aなど、一部航空会社では訓練時のコールサインとして使用されることもある形式です。
c.はANA9102など、各社の定期便はほぼほぼこの形式です。もちろん、APJ503や、ANA186もこの形式に当てはまります。
a.を使用する場合は、Boeing 831Aのように航空機製造会社名もしくは航空機形式名を国籍記号の代わりに使用することができます。
つまり、Boeing JA831Aは不適切です。
簡略化できる条件
まず第一に、管制官から簡略化したコールサインで呼び出された場合と、コールサインの変更を指示された場合を除き、航空機局は飛行中にコールサインの形式を変更してはいけません。
つまり、航空機はかってに省略したコールサインを使ってはいけないということです。
(呼出符号の使用の特例)
無線局運用規則 第百五十七条(呼出符号の使用の特例)
第百五十七条 航空局又は航空機局は、連絡設定後であつて混同のおそれがないときは、当該航空機局の呼出符号又は呼出名称に代えて、総務大臣が別に告示する簡易な識別表示を使用することができる。ただし、航空機局は、航空局から当該識別表示により呼出しを受けた後でなければこれを使用することができない。
(昭四三郵令三一・全改、平一二郵令六〇・一部改正)
航空機局は飛行中にコールサインの形式を変更してはならない。ただし、次のⅲおよびⅳの場合はこの限りではない。
筆者注釈1: ⅲ)管制機関から簡略コールサインによって呼び出された場合
AIM-j 2018年後期版 274.e.ⅱ)
筆者注釈2: ⅳ)管制機関から一時的にコールサインの変更を指示された場合
また、コールサインを簡略化できるタイミングは以下のように定められています。
(前略)民間機の無線呼出符号は、通信が完全に設定されたのちであって混乱の生ずるおそれのない場合には、(中略)簡略化することができる。(後略)
VATJPN管制方式基準(Ⅰ)-6a-(7)-e.-(a)
つまり、管制官もイニシャルコンタクトではコールサインは簡略化せず、正式なコールサインを使用する必要があるということです。
簡略化の方法
コールサインの形式ごとに
a. レジ番の最初の一文字と、少なくとも最後の二文字
b. 航空会社コールサインと、レジ番の少なくとも最後の二文字
c. 簡略形式なし
となっています。
![](https://squawk.id/img/Callsign_001-1024x548.png)
つまり、航空会社の便名を使用するときに簡略化はできません。
また、「JA831A」と「JA731A」はどちらも「J1A」と簡略化することができます。
ですがこれではどちらがどちらか分からなくなってしまうので、混乱の生ずるおそれがある際は簡略化しないようにしなければなりません。
![](https://squawk.id/img/Callsign_002-1024x548.png)
参考文献
本記事は以下の文献等をもとに作成しています。
・第37回ATSシンポジウム研究発表「適切でない管制用語の使われ方」、「高度制限の再確認」
http://atcaj.or.jp/wordpress/wp-content/uploads/2015/11/37th_ATS_Symposium.pdf
・JAPA 第37回ATSシンポジウム 1 適切でない管制用語の使われ方
https://www.youtube.com/watch?v=kBG_VhxByR4
・JAPA 第37回ATSシンポジウム 2 巡航からの降下
https://www.youtube.com/watch?v=gvZ3aEZavr0
・JAPA 第37回ATSシンポジウム 3 高度制限の再確認
https://www.youtube.com/watch?v=FJWEEUnA-as
・ATC再発見 Radio Telephony Meeting Vol.001 2016.07
・ATC再発見 Radio Telephony Meeting Vo.004 2016.12.23
・AIM-j 2018年後期版
・VATJPN管制方式基準
・無線局運用規則
おわりに
パイロットは
「管制官のコールサインの一部を省略してはいけない」
「自分のコールサインは自ら簡略化してはいけない」
だけでも覚えていただけると嬉しいです。
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