僕が唐突にバイト先で思いついたアンケートでしたが、投票してくださった皆さんありがとうございました。
本来はVATSIMでありそうなトラブルの記事のコンテンツとして公開する予定でしたが、予想以上に票が集まったため、これ単体で内容をさらに掘り下げ記事にすることにしました。
お題のおさらい
お題はツイートとおりですが、もう少し丁寧に言うと「通信が混雑しているなどの理由でSTARの開始点(=フライトプランの終点)を過ぎても、計器進入方式を開始する進入フィックスまでの飛行方法(=STARなど)について管制官から指示されず、その飛行方法についても確認が取れない場合、フライトプランの終点からどのように飛行すべきか」というものです。(字数制限余裕で超過)
本来であればフライトプランの終点に到達する前に、
- 計器進入を開始するフィックスへの直行指示
- STARの承認
- 最終進入コースへのレーダーベクターに関する指示
- 計器進入を開始するフィックスへのレーダーベクターに関する指示
- ビジュアルアプローチのためのレーダーベクターに関する指示
上記のいずれかの指示が管制官から指示されます。
ですが、管制官が忙しくて通信を割り込むことができず何も指示を受けられない場合、どのようにしたら良いのでしょうか。
具体的に大阪国際空港から福岡空港に向かうANA425を例に挙げてみます。
ANA425は下記のルートでフライトプランを提出し、クリアランスは「Cleared to Fukuoka airport via TIGER2 departure SOUJA Transition flight planned route.(後略)」で承認されました。
TIGER2.SOUJA Y281 STOUT Y20 KIRIN
このフライトプランの終点はKIRINであり、その後の飛行については管制官から指示されます。
しかし、この日は福岡コントロールが福岡アプローチの業務を兼任しており、交通量が多くKIRINに到達しても管制官に確認することができませんでした。(福岡タワーのみログイン)
答え
さて、おさらいだけで長くなってしまいましたが回答です。
通信の混雑等のために確認ができないまま最後のフィックスに至った場合は、最新の情報によって使用されていると思われる計器進入方式に繋がるSTARの経路によって進入開始点への飛行を継続する。
AIM-j 2020年前期版 614項
注)STARの開始点から先の経路が示されなかった場合でも、STARの開始点で指示なくホールディングを行ってはならない。
つまり、正解は2番目の選択肢である、予期されるSTARに従うというのが今回の状況で最も適当な回答になります。
これは到着空港がタワーかレディオか、ノンレーダーかそうでないか、あるいはSTARの開始点にホールディングパターンが公示されているかどうかに関わらず共通です。
先のANA425を例にすると、福岡タワーのATISを確認し、実施されている進入方式がRNP RWY16 APCHだった場合、これに繋がるMALTS EAST ARRIVALを飛行します。
ただし、従うのはあくまでSTARの経路(水平方向)のみで、許可なく指定高度から逸脱してはいけません。
本来ならばSTARは計器進入のために飛行しますが、このような場合では障害物からの安全間隔を取るための一時的な経路として解釈するというのが個人的な意見です。
AIM-jのとおりに予想されるSTARに沿って飛行を開始し、通信を入れる余裕ができた場合には現在の位置と飛行しているSTAR、現在高度を簡潔に伝えるといいかもしれません。

ANA425, departed KIRIN. Following MALTS EAST ARRIVAL. FL170.
ただし、必ずしも通信を入れれるとは限らず、その後も追加の指示を受けられないまま飛行を続けた場合には、計器進入方式の進入フィックスで公示されているホールディングパターンに従いホールドをすることになります。
これは、進入フィックス以降の飛行については、通信機故障の場合を除いて進入許可が必ず必要であるためです。(通信機故障の場合は、別途手順が定められています。)
ANA425の例では、MALTSでホールドを行います。
フライトプランの終点でホールドを行うケース
先の例では、フライトプランの終点でホールドを行ってはならないと書きましたが、例外としてフライトプランの終点でホールドを行うケースがあります。
日本では空港の特性によって、フライトプランの終点が計器進入方式の開始点で、その途中にSTARの開始点を含む場合があります。
これはAICのChange of Flight Planned Routesに定められています。
このような場合ではSTARに従って飛行するのではなく、そのままフライトプランの終点である計器進入方式の開始点まで飛行し、追加の指示が受けられなければそこでホールドを行います。
このような例としては、大分空港が挙げられます。
…Y28 MARCO Y45 YANAI BAIEN TFE-RJFO
フライトプランの途中であるYANAIからはいくつかのSTARが公示されていますが、指示を受けられない場合はTFEまで飛行し、ILS Y RWY01 APCHなどTFEが開始点の計器進入方式に公示されたホールディングパターンに従って待機します。
なぜSTARを飛行しても良いのか
それでは、なぜ管制官の承認がないにもかかわらずSTARを飛行しても良いのでしょうか。
これについて簡単にまとめます。(面倒な方は飛ばしていただいて構いません。)
多くの場合、出発時のクリアランスで「Cleared to [目的飛行場] via … flight planned route.」という形で承認されます。
この場合の管制承認限界点は目的飛行場(Cleared to …の部分)であり、クリアランスで目的飛行場までの飛行が承認されていることは明確です。
クリアランスが目的飛行場までであれば、少なくとも進入開始点までは飛行することができます。
現在は、それまで着陸滑走路や計器進入方式などが定まらずに「クリアランスの”Flight Planned Route”で不明確だった経路」を「明確な経路」としてSTARの開始点に到達する前に承認しなおす手順として解釈されています。
IFR機が着陸するためには計器進入を行わなければならず、そのためには計器進入の開始点まで飛行しなければならないということは言うまでもありません。
そもそもSTARは特定の計器進入方式のために設定されているものですから、経路が明確にされていないクリアランスで許可されている進入開始点まで、パイロットが自主的に飛行するためには、STARを飛行するしか手段がありません。
さらにSTARの開始点でのホールドは後続機がいた場合、管制官が予期できずに管制間隔の欠如に繋がる可能性があります。
また、STARの開始点からパイロットの判断でヘディングなどによってルートを設定して飛行した場合、障害物との間隔が必ずしも担保されるとは限りません。
しかしながら、STARであればパイロットが自主的に飛んでも障害物との間隔を維持することができます。
方式基準の解釈だけでなく、現実的な面から見てもSTARを飛行することが最も合理的で安全なわけです。
参考文献: 一般財団法人 航空交通管制協会 ATC再発見 Vol.016
【飛行計画経路(Flight Planned Route)の飛行】
管制官はフライトプランのルートが計器進入の開始点まで航空路や公示された直行経路として繋がっていない場合、STARの開始点以後の飛行経路について時間的余裕をもって指示しなければならないというのは言うまでもありません。
VATSIMではどうするか
今までの内容はすべて現実世界でプロの方々が議論され、そして一定の結論が得られた内容です。
最後にVATSIMではどうするのか良いのかについて、僕個人の超個人的な意見を述べます。(大事なことなので2回ry)
VATSIMでは多くのセクターを兼任することがほとんどで、特にコントロールはシステム上非常に負担がかかることが多く、特定の地点に集中してしまって他のトラフィックを失念なんていうことも少なくありません。(もちろん、本来あるべきではありません。)
例え無線が比較的空いている状況であっても、STARの承認をし忘れるなんていうこともC1管制官なら誰もが一度は経験したことがあることだろうとは思います。
目安としてSTARの開始点(フライトプランの終点)から10NM前後になっても以降の飛行方法について指示がない場合には、フライトプランの終点のフィックスに近づいているということを伝えていただけるだけで大いに助かります。

ANA425, approaching KIRIN.
大抵の管制官はこの一言でパイロットが何を要求しているのかが分かると思います。
また、今回のアンケートのように無線が混雑していてとても割り込めるような状況でない場合でも、VATSIMは音声の他にテキストという文明の利器も使うことができ、この点では現実の管制よりも発展(?)しています。
忙しいときでも、大抵の管制官は周波数上のチャットならば見ているので、チャットで伝えるのが好ましい手段ではないでしょうか。
チャットで伝えても指示が来ない場合は、本記事のように予想されるSTARに従って飛行しましょう。
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