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2020年4月1日。東京都小笠原村父島に新父島国際空港(東京)が開港しました。
滑走路長はA滑走路が890m、B滑走路が3360mの2本。
この空港には特殊なローカルルールが数多く存在します。
多くてとてもすべては書ききれないので、その一部を解説します。
基本情報
正式名称: 新父島国際空港 (New Chichijima International Airport)
ICAO: RJTM
IATA: CHJ
レーダーあり (八丈アプローチの管轄)
11:00~11:30 デリバリー/グランド/タワー
11:30~18:50 デリバリー/レディオ
18:50~11:00 デリバリー/リモート
Call sign | Frequency | Hours of operation |
Hachijo Approach | 119.025MHz | 24H |
New Chichi GCA | 125.525MHz | 24H |
New Chichi Tower | 118.1MHz | 1100I – 1130I |
New Chichi Ground | 121.7MHz | 1100I – 1130I |
New Chichi Delivery | 122.525MHz | 24H |
New Chichi Radio | 118.1MHz | 1130I – 1850I |
New Chichi Remote | 118.1MHz | 1850I – 1100I |
構造

大きな滑走路(B滑走路)が一本、小さな滑走路(A滑走路)が一本、高速離脱路が5本あります。
15Lのファイナルには管制塔が、33Rのファイナルには大きなハンガーがあります。
JCG HANGER(実際の団体とは一切関係ありません)に行くにはすべてのHOLD LINEを通過する許可を管制官にもらなわなくてはなりません。
交信例
この空港は日本で初めてのタワー・レディオ・リモートが共存する空港です。
その時間帯によって用語を変えるのは非効率的、そして安全面に問題があるとして、管制用語はすべて統一されています。
その中で代表的なものを紹介します。
クリアランス

New Chichi Delivery, JAL9FQ. Gate I1.

JAL9FQ, New Chichi Delivery, go ahead.

JAL9FQ, to Haneda. FL400.

Delivery Clears, JAL9FQ. Cleared to Haneda Airport, via Chichijima Reversal 1 RNAV departure, AROSA transition, AROSA then direct. Maintain 100. Expect FL400. Squawk 9989 and ident.

JAL9FQ Squawk 9989 and identing. Cleared to Tokyo Haneda via Chichijima Reversal 1 RNAV departure, AROSA transition AROSA direct. Maintain 100 then FL400.

Correct. Monitor New Chichi Ground 121.7, report when ready.

Switching to Ground point 7. JAL9FQ.
さて。航空管制においては空港名は愛称は使わず、正式名称を使用します。
つまり、羽田空港とは言わず絶対に東京国際空港(もしくは東京空港)というのです。
(愛称で指示を出す決まり場合、鳥取空港は「鳥取砂丘コナン空港」、百里飛行場は「東京メトロポリタン茨城空港」と言わなきゃいけませんよね)
ですが、新父島の管制官は「ここが本当の東京国際空港だ」という認識があるため、東京国際空港を自称する羽田空港をとても嫌っています。
そのため、パイロットや管制官はあえて“羽田”という言葉を使い「所詮は大田区羽田空港にすぎないのだよ」ということを主張しています。
この空港ではクリアランス発出と同時にIDENTを求めています。理由は分かりません。
他の空港では聞かないクリアランスなので覚えなくていいでしょう。
プッシュバック

New Chichi Ground, JAL9FQ. Gate I1. Ready for pushback.

JAL9FQ, New Chichi Ground. RWY33, You may pushback on the B runway heading south until JFQ9X via A-11 taxiway. Contact New Chichi Tower 118.1.

RWY33, Starting pushback on B runway south, till helipad via A-11. Contact Tower. JAL9FQ.
自分でも何がなんだかわからなくなってきました。
まず、新父島は構造上、A滑走路(短い滑走路)を使用できないため、RWY33Lとは言わず、RWY33といいます。
そして次の「JFQ9X」。一見暗号にも見えますが、これはヘリパッドの名前です。
「via A-11 taxiway」はプッシュバックの際に経由すべき地点です。
ですのでこの場合「滑走路33に向け滑走路上のJFQ9Xまで、A-11誘導路経由でプッシュバックしてもいいよ」という意味になります。

そしてこの空港ではプッシュバックで滑走路上に行くため、プッシュバックの許可と同時にタワーにコンタクトするように言われます。
タクシー

New Chichi Tower, JAL9FQ. Commencing pushback from gate I1 with information K.

JAL9FQ, New Chichi Tower, roger.

New Chichi Tower, JAL9FQ. Request taxi.

JAL9FQ, taxi down RWY33.

Taxi down to RWY33. JAL9FQ.
この空港はTWRでATISの受領報告を行います。レディオ・リモートの時間帯はレディオ・リモートで行います。
このATISには進入方式や、使用滑走路、風や気圧などフライトに必要不可欠なものが記載されています。
成田空港や、新父島空港は例外ですが、大体の空港はプッシュバックを要求するときに受領報告を行います。
なお、成田空港はランプコントロールがあるため、ATISの受領報告はグランドで行います。

Narita Ground, JAL3083. Approaching S7 Gateway, information K.

JAL3083, Narita Ground. RWY34L, taxi via S7 Gateway, S7, K, A to holding point.
この新父島空港もグランドが存在しない時間があるため、タワー・レディオ・リモートでATISの受領報告を行うようです。
「TAXI DOWN」というのは滑走路上を走行してRWY33に向かえ、という指示です。


JAL9FQ, ready for departure.

JAL9FQ, contact New Chichi Delivery 121.52.

121.52. JAL9FQ.
本来、レシプロ機以外は離陸滑走路に近づいた段階で、離陸準備完了とみなされ、離陸許可が発出されます。
ですが、レディオ・リモート空港では、レシプロ機であろうとジェット機であろうと、自主的に準備完了を通報すべきです。
この空港もレディオ・リモート空港に準拠しているため、自主的な通報が必要です。
離陸
いよいよ離陸ですが、デリバリーにコンタクトされるように指示されたのでデリバリーにコンタクトします。

New Chichi Delivery, JAL9FQ. Ready for departure.

JAL9FQ, New Chichi Delivery. APP clears, wind 030 at 10, RWY33, cleared for takeoff. After airborne, contact Hachijo Approach.

RWY33, taking off. Contact Hachijo Approach. JAL9FQ.
さて、離陸許可が発出されました。
離陸の許可に相当する指示(情報)はタワー空港・レディオ空港・リモート空港で3通りあります。

Cleared for takeoff.

RWY is clear.

Obstruction not reported on RWY.
これらすべての指示(情報)は「滑走路に障害物はないし、関連する他機もいない=離陸支障なし」を意味します。
この空港はアプローチが離陸許可を発出し、それをデリバリーが伝達する決まりのようです。
管制方式基準には「移管が同一管制機関内で行われる場合又はあらかじめ通知してある場合」に使用周波数等を省略できると記載されています。
この空港のATISにはディパーチャー(アプローチ)周波数が記載されているので、 省略されます。
航空機との無線通信の他の管制機関等への移管は、航空機が通信の移管を受ける機関の無線通信到達範囲にはいった後に、航空機に対し次の事項を指示することにより行うものとする。ただし、(b)以下に掲げる事項は、移管が同一管制機関内で行われる場合又はあらかじめ通知してある場合は、省略することができる。なお、飛行場管制所の管制席相互間において通信の移管を行う場合であって、業務上有効であると判断されるときは、関係管制席と調整を行った上で、航空機に対して当該周波数を聴取するよう指示することができる。
管制方式基準 (Ⅰ)-5-(14) 及びVATJPN管制方式基準(Ⅰ)-6b-(14)
(a) 連絡すべき管制機関等の無線呼出符号
(b) 連絡すべき時刻、フィックス、高度等
(c) 使用周波数
周波数の省略は東京国際空港や、関西国際空港、大阪国際空港を始めとして様々な空港で行われており、VATJPN上でも周波数が省略されることがあります。
ATIS受領報告があったということはその内容のすべてを読んだと解釈されます。
ATISは流し読みではなく必ず細かい場所まで読むようにしましょう。
初期上昇

Hachijo Approach, JAL9FQ. Maintain 100.

JAL9FQ, Hachijo Approach. Identify. Climb and maintain FL150.

Climb and maintain FL150. JAL9FQ.
この空港は離陸後、100FTという超低高度を維持しなくてはなりません。
那覇空港でも1200FT前後の低高度を維持するよう指示される場合があります。
指定された高度を逸脱して上昇してしまうと、他の空港の到着機に干渉してしまいます。
那覇空港や新父島空港から離陸する際は絶対に指定された高度を逸脱しないように、事前に練習しておきましょう。
続いて「Identify」という用語。これは日本では使用されていませんが、アメリカなど、海外でよく使用される「Radar Contact」と同じ意味の用語です。
海外を飛行する際に混乱しないよう、頭の片隅においておいてください。
ここから先は、通常通り洋上管制に移管されます。
降下~スポット
この空港の会合高度は100FTですので、100FTまでの降下指示が発出されたのち、ILSでの進入許可及び着陸許可が発出されます。

JAL10FQ, 7NM from APRIL, descend and maintain 100. Maintain 100 until established, RWY33, cleared to land via ILS Z RWY33L approach. Monitor New Chichi Tower 118.1. Report APRIL to tower.

Descend and maintain 100, maintain 100 til established. RWY33, cleared to land via ILS Z RWY33L approach. Monitor 118.1 and report APRIL. JAL10FQ.
着陸許可はタワーで発出されることがほとんどですが、この空港に24時間いるのはデリバリーを担当する管制官のみのため、アプローチで着陸許可が発出されます。
最後の「Monitor New Chichi Tower 118.1. Report APRIL to tower.」という用語は、周波数移管の指示です。
この指示は「Monitor(聴取して下さい)」ですので、周波数を切替えたあとすぐに呼びかける必要はありませんが、APRILでタワーを呼び出す必要があります。

New Chichi Tower, JAL10FQ. position APRIL, gate 65.

JAL10FQ, New Chichi Tower, report down time.

Wilco. JAL10FQ.
既に着陸許可が出ているため、タワーはダウンタイムの通報しか求めません。
本来ダウンタイムの通報はリモート空港でのみ行われ、タワー空港での通報は求められません。
ですがこの空港はリモートの時間があるため、リモートの用語に合わせているようです。
新父島空港ではタワーのイニシャルコンタクトでスポットの番号を通報します。
これは、東京国際空港も同じです。
VATJPN上でもスポットの通報を求められることがあるので、タワーやファイナルコントローラー(GCAの場合)にコンタクトする前にスポットを決めておくとスムーズです。

JAL10FQ, down at 02.

JAL10FQ, roger. Report RWY vacated.

Wilco. JAL10FQ.
さっきも出てきた「Wilco」。
これは「あなたの通報は了解しました。これに従います。」という意味で、この場合は「Report RWY vacated」に対する返信なので「Will report RWY vacated」と同じ意味になります。

JAL10FQ, RWY vacated.

JAL10FQ, contact ground 121.7.

Ground point 7. JAL10FQ.
こちらも出発編で出てきた「Ground point 7」。
これはFAAのATCスラングの一つです。
グランドの周波数は121.7、121.8など121.Xなことが多いため、121.を省略して「Ground point 7」といいます。
日本では使われませんが、海外に行った際に是非活用してみてください。
グランドではSPOTまでのタクシー指示が出て終わりです。
新父島空港では「Main Taxiway」はSPOTの前(エプロン)の誘導路のことを言うようです。

New Chichi Ground, JAL10FQ, pickup A11, gate 65.

JAL10FQ, taxi via A11, main taxiway to spot 65.

Via A11, main to spot 65. JAL10FQ.
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